ランディング戦略|ブランディング事業|教育力・研究力|実工学教育の日本工業大学
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ブランディング事業ブランディング戦略

建学の精神・大学の伝統および教育研究上のマイルストーン

学校法人日本工業大学の歴史は、明治40年(1907年)に「東京工科学校」を設置した時に始まる。設立の目的は、政府が国産技術の開発を推奨する政策を立案したことから、わが国にまだ少数であった技術者と生産現場の工員をつなぐ中堅技術者の養成にあった。当時のトピックとして、明治44年(1911年)に、当時の先端技術であった国産飛行機の開発を、日野熊蔵大尉が本校の実習工場で行ったことなどに歴史をとどめている。設立時は夜間学校であり、昭和6年からは甲種工業学校となり、昭和23年(1948年)から新制の東京工業高等学校となり、現在までに、合わせて1万名を越える中堅技術者(卒業生)を輩出し、日本の工業技術の発展に寄与した。
日本工業大学は、日本初の工業高校卒業生を受入れる大学として、昭和42年(1967年)に設立された。その目的は、工業高校卒業生の大学進学希望が増加したことから、専ら工業高校卒業生を受入れ、大学において高度な技術を学ぶ機会を提供することにあった。
建学の精神には、「1.真理の探究に努めるとともに、工学理論を現場の技術に直結しうる能力をもつ高級科学技術者を育成する」及び「4.産学協同の理念に基づき、現実社会との連携を密にし、その発展に寄与する」と謳っている。

本学のこれまでの研究活動においては、産学連携研究が多く進められ、多くの実用技術が生み出されてきた。本学のこれまでの教育研究のマイルストーンを以下に抜粋する。

(a)超硬質膜、機能性薄膜の合成に関する研究

①アルコールから人工ダイヤモンドの合成に成功(1986年):工学部電気電子工学科広瀬洋一教授が、気体アルコールを原料とした気相合成法によるダイヤモンド結晶の合成に世界で始めて成功した。
②スーパーカーボンの合成と応用に関する研究(1998~2003年、文部科学省私立大学ハイテクリサーチセンター整備事業、2003~2008年、同高度化支援事業):DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、cBN(立方晶窒化ホウ素)およびダイヤモンド多結晶膜を合成する方法、及びそれらの工業的応用に関する研究に関する研究拠点となった。

(b)画期的な金属繊維製造技術の開発と大学内ベンチャー企業の設立(2000~現在)

工学部機械工学科柳澤章教授(現理事長)により、画期的な手法による金属繊維製造技術が開発され、金属繊維製造世界最大手のべカルト社(ベルギー)と合弁により、大学内にベンチャー企業を設立し、大学発ベンチャーの成功事例として注目された。

(c)アジャイルファインフォーミング法(金属塑性加工技術)の開発(2003~2008年、文部科学省産学連携研究推進事業)

精密金属塑性加工技術の一つである「ファインブランキング法」による精密金属プレス加工技術に関する研究拠点となり産学連携研究が実施された。

(d)全学的な環境教育と研究の推進(2001~現在)

環境問題が顕在化した2000年ごろから、環境に関する教育と研究に取り組み始めた。それは、下記の社会貢献、研究、教育に発展し、近年では、エコ大学として全国的に認知されている。
①ISO14001取得(2001年)
②学内に国内随一のヒートアイランド研究施設を建設(2002年)
③工学部にものづくり環境学科を設置(2008年)
④エコ大学ランキング日本第一位(2011年)
⑤サステイナブルキャンパス評価システム(ASSC)「ゴールド」認定(2016年)

大学の将来ビジョン

本学の将来ビジョンとして、これまでの建学の精神を継承し、本学の主たる目的とする中堅技術者の育成及び工業の基盤技術に関する研究を引き続き推進する。しかし、大学の設立した社会・経済環境からの変化に対応するため、わが国の技術基盤の醸成を行ってきた伝統的な基幹技術を生かしつつ、人間や自然環境を考える分野としてものづくり環境分野や生活環境デザイン分野を、先端的かつ応用的な技術分野としてのロボティクス分野および情報工学分野の充実を進めてきた。
2018年度より、これらの教育研究内容を将来のビジョンに即して、基幹工学分野・先進工学分野・建築分野に再編成を行った。さらに本学のビジョンを世界に向けて発信するため、化学・生物・材料分野をインテグレートした応用化学分野を新設した。これまでの基盤技術と先端科学を融合した新たな基盤技術の育成を目指すものとした。
教育研究体制、教育及び研究推進の観点からのそれぞれの将来ビジョンを以下に示す。

① 教育研究体制に関するビジョン

「学部・学科改組(2018年度~)」社会及び科学技術の変化に対応し、本学の教育研究の目的を継承するとともに進化させ、学部・学科の改組を行った。本学は設立以来、「工学部」1学部の編成で、社会及び科学技術の変化に対応して学科を増やし、7学科編成に拡張してきた。それを2018年度より「基幹工学部」、「先進工学部」及び「建築学部」の3学部とし、各学部の目的を明確化することとした。
基幹工学部は、工業の基盤・要素技術を教育研究する学部とし、「機械工学科」、「応用化学科」及び「電気電子通信工学科」を設置した。先進工学部は、前者の基盤・要素技術の人類社会への応用技術を教育研究する学部とし、知能機械への応用分野として「ロボティクス学科」を、情報への応用分野として「情報メディア工学科」を、それぞれ設置した。
建築学部は独立させ、人間と住環境、社会環境との関係を教育研究する学部とした。

② 教育に関するビジョン

本学の伝統的な入学者であった工業高校卒業生が、高等学校の構成比の変化もあり入学者に占める割合が40%となった。また、入学者の学習履歴も多様化が進んでおり、大学卒業時の質保証を図るために教育システムを見直す。
基礎力を担保するため「数学、物理・化学、英語」カリキュラムに、入学時のプレースメントテストの結果を踏まえて、個人の学力レベルに合わせて学習を開始し、反復的な学習により質とともに水準を担保するクォーター科目を導入し、全学的な教育改革を実施する。
専門教育においては、実践を学んでから理論を学ぶという本学伝統のカリキュラムを維持し、それにアクティブラーニングなどの主体的学びを取り入れて、現在の学生の気質にあわせた教育を展開していく。
 

③ 研究推進に関するビジョン

基幹工学部では、本学の伝統である工業の基盤・要素技術に関する研究を推進し、研究領域としては、生産工学分野、応用化学分野、電気通信分野などの本学が培ってきた研究分野である工業の基盤・要素技術を主として研究する。特に、応用化学の分野は、今後の重要な分野であると考え、同研究をより広範に深く推進するために、工業材料分野に生物化学分野を加えて領域を広げ「応用化学科」として独立させた。
先進工学部は、前記の工業基盤・要素技術を社会への応用する技術を研究し、本学の目的のひとつである工業技術による社会貢献を達成する。研究領域として、知能機械分野及び情報メディア分野を設定した。
建築学部は、工学から独立させ、人間と生活環境、および社会環境との関係を研究することとした。

ブランディング事業の独自色と将来ビジョンとの関連

本ブランディング事業のテーマは、全固体電池の技術開発である。電池技術は、今後の輸送機器、住宅や事業所、情報端末機器などの動力源として、それらの性能向上のカギを握る技術である。また、省エネルギーや低公害の技術であり、国のエネルギー政策の要でもある。本ブランディング事業では、次世代電池候補として有力視されている全固体電池の開発技術を研究することを目的とする。
全固体電池の開発においては、「抵抗界面形成」を実現する電池材料の合成技術、「プロセス(電池製造)技術と電極形成」における電極や電池材料となる薄膜形成技術、金属プレス加工によるパッケージング技術などの総合技術が要求される。それらの要素技術は、本学の基幹工学部が培ってきた研究分野と合致する。特に、これまで取り組んできており、本学が世界的な研究拠点となっている炭素系薄膜形成技術、金属プレス加工技術などの分野の応用技術となる。また、研究の加速に必要とされる「機械学習を利用した新規材料開発」には、電気電子通信工学分野及び情報工学分野のコンピュータテクノロジーが成果を発揮する。
「高性能全固体電池の実証」に関しては、本学の先進工学部の知能機械や輸送機器分野での電池の応用技術や、情報端末分野で実証が可能となる。
以上のことから本研究ブランディング事業のテーマは、本学の将来ビジョンと合致する。

事業に期待する効果と事業対象

本事業がもたらす効果および事業対象は、主として以下の4つのステークホルダーに対して該当するものと想定している。ステークホルダーごとの効果と事業対象を以下に述べる。

【ステークホルダー1:学術界】
全固体電池は、学会等において次世代の革新的蓄電池の1つとして位置づけられており、世界の研究者が、その開発にしのぎを削っている。本事業では、発電能力に関して、そのトップレベルを目指すことを目標に掲げている。リチウムイオンが移動するための低抵抗電解質薄膜を開発し、その研究レベルにおいて世界を先導することを期待している。本学は、全固体電池開発における世界拠点となり、その知名度を高める。知名度は学会や産業界に浸透し、関連研究者間の交流、研究集会等が活発に行われる。

【ステークホルダー2:企業】
蓄電池開発においては、電解質薄膜のみならず、パッケージングや電極部品等の筐体製造技術が実用化に向けての重要課題となる。実用化研究の段階では、パッケージング技術は金属プレス関連の企業に移行する。本学は、それらの関連企業との共同研究を活発に推進し、産学連携推進という大学の伝統を、より推進することができる。事業対象は、電池筐体の製造技術に移行し、関連産業の振興に貢献する。

【ステークホルダー3:人類社会】
蓄電池の長寿命化は、輸送機器、情報端末、家庭発電などの実用性を大きく向上させる。その結果、交通システム、スマートグリット社会を変革することを期待している。また、省エネルギーや地球環境保全にも大きく貢献する。
人類社会は、全固体電池がもたらす豊かさを享受し、豊かで安全安心な生活を営めるようになる。蓄電池技術の進化は、自然災害などの危機に対する備えにも効力を発揮し、人命救助ロボット、無人航空機、住居の提供などに効果を発揮する。

【ステークホルダー4:受験生等の若年層】
わが国の研究レベルが世界最先端であるという自負、および社会の変革に対する期待は、将来の社会を担う若年層(受験生含む)に対し、大きな未来の夢を与え、社会を明るくする。その結果、受験生の理工系大学への進学希望が増加し、全国の大学が活性化し、本学においても受験生の量と質が向上し、教育効果が上がり、次の世代の技術者や研究者が育成され、理工系分野の教育サイクルが好転する。

本事業で浸透させたい大学のイメージ

「日本の技術を開き、それを現場で支え、実直に基盤技術の開発を実践してきた大学であり、将来にわたって、その姿勢を堅持し、今後の人類社会の変化に応じて新しい科学技術を導入しながら、これからの基盤技術のあり方を提案する大学」というように、本学の建学の精神と、これまでの伝統を継承しつつ深化する。また、「小規模ながらも、その規模に合ったスケールでの工学研究に邁進し、特定の分野で世界を牽引する実力を備えた大学」を目指す。本学がこれまで取り組んできた、基盤技術である薄膜形成技術、金属プレス加工技術などの研究分野は、本学の強みであり、将来にわたって重要な技術であると分析できる。そして、本事業を通じた新たなイメージは、基盤技術を社会の要求に応じて変革させていくイメージであり、すなわち、基盤技術に、最近の新しい材料化学、原子レベルでの物質操作、機械学習などの新しいアルゴリズムや計算分野を加味し、よりスマートな技術に仕上げるものである。

大学のイメージの分析と情報発信手段

大学のイメージの分析は、「大学ブランド構築のための会議(2016年4月~12月)」において、本学へ志願者が多い高校生(高校数203校)、および本学卒業生が多く就職する企業(386社)を対象とした本学のイメージに関するアンケート調査結果により実施した。
その結果、工業高校生が持つ本学のイメージは、技術に優れた大学、設備が充実した大学、就職がいい大学、新しい技術を模索している大学などの回答が多かった。その要因分析をしてみると、機械、電気、建築といった従来からの学科の堅実なイメージと、応用科学やロボティクスなどの最新の技術化学のイメージとが混在していることがわかった。この調査結果は、本学の目指すブランディングの方向をおおむね合致していることがわかった。
次に、企業が持つイメージでは、しっかりと技術教育をする大学、実用に近い研究を推進している大学、学生が元気な大学などであった。この調査結果からも、社会に役立つ研究を共同研究していく本学の精神、堅実に基盤研究を続けるという、本学の目指すブランディングの方向をおおむね合致していることがわかった。
以上の分析結果を踏まえて情報発信手段を以下のように設定した。

【受験生への施設公開や公開授業】
本学のイメージは、偏差値偏重の受験雑誌や予備校等からではなかなか浸透できない。いわゆる偏差値では表現できない、いい大学を知ってもらうために、実物に触れてもらうことが重要であると考えられる。オープンキャンパス、その他の機会を利用して施設公開や授業公開を頻繁に開催することで情報発信していく。

【記者発表や雑誌記事発表】
業界新聞、業界雑誌などに記者発表や情報記事を発表して行くことは、事業内容や大学のイメージが関連企業等に直接伝わる情報発信手段であると考える。研究開発における企業の協力、成果に関する社会の認知を得るために、記者発表や情報記事の発表を行う。これにより、共同研究を呼びかけ実用化研究や応用研究が促進されることを期待している。

【展示会や公開シンポジウム】
研究成果に関して広く正しい周知を図るために、研究内容について展示会や公開シンポジウムで平易に解説していく。社会に対して動力源の将来の姿を発信することにより、未来の予想図を示し多くの人々に夢を広げることを期待している。
若年層に将来の夢を持たせるため、全個体電池の社会基盤における有用性を体験させ、今後の応用展開の可能性を実感させることにより、受験生に科学技術の発展が示す社会貢献を理解し、技術開発の意味を知り興味を持たせることにより、理工系分野への憧れを持たせ、優秀な人材が入学し将来的に研究が推進される正のスパイラルが起きることも期待する。

ブランディング戦略工程

第一段階:【成果の情報発信】
学術的内容は、オーソドックスに全固体電池の研究成果の学会等での口頭発表や論文投稿によって実施する。産業化に関する内容は、業界新聞や業界雑誌への記者発表や情報提供によって行う。これらは、工業大学らしい情報発信法であり、かつ経済的でピンポイントに関連企業に到達するものと考える。

第二段階:【プロモーション】
一般の皆さんへの情報発信は、施設公開や公開シンポジウムなどによって実施する。関心のある人達にダイレクトに正しい情報を届けることができる。受験生へは、オープンキャンパス等での施設見学や模擬授業などによって行う。これも直接説明することで共感を呼ぶことを狙っている。学術的内容に関しては、大学間共同研究、相互の研究者交流、学会でのシンポジウム企画、学会委員会の立ち上げなどにより実施する。実用化研究内容に関しては、企業との共同研究の実施、大学見学会の実施などによる。

第三段階:【協力・評価の獲得】
事業テーマである全固体電池開発にあたっての各要素技術、例えば、固体電解質材料、薄膜形成技術、および筐体製作のための各種金属加工技術において、本学が、学会、他研究期間等から学術的な評価を得て、この分野における、学会講演会開催、研究委員会立ち上げ、研究者交流などの協力要請が得られるようになる。
実際の全固体電池の実用化段階では、関連企業からの共同研究が実施され、共同研究料収入、特許収入、生産金額によるライセンス料収入などが得られる。
世界的な環境問題や開発途上国における自然エネルギー利用による産業振興・コストの合理化などで、世界的な共感が得られ、国際会議への招待、海外共同研究の申込みなどが発生する。
受験生からの評価が得られ、本学への進学者が増加する。また、卒業生の進学率や就職率向上などが期待できる。