教員の研究活動|教育力・研究力|実工学教育の日本工業大学
heading.jpg

教育力・研究力教員の研究活動

基幹工学部応用化学科大澤正久教授らの研究成果がDalton Transactionsに掲載されました

 応用化学科大澤正久教授らは、単分子で白色発光する金(I)系リン光材料の合成に成功し、そのデュアル発光メカニズムを明らかにしました。本研究成果は英国王立化学会の無機化学系専門誌の中で最も権威があるDalton Transactionsの表紙に採択されました。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/dt/d2dt03785h

 

 大澤先生のハイブリッド材料研究室では、発光分子の設計・合成、及び発光メカニズムの解明を通して、より高効率な発光材料の開発を行っています。(※1)
 ちょっと難しい話ですが、「発光(蛍光、リン光)のほとんどは、与えられた多重度の最低励起状態から起こる。」というカシャの法則(※2)があります。この法則を簡単に言い換えると「材料の発光色は通常一色で、同時に二色発光することは無い。」という法則です。つまり単分子で白色光を示すことは不可能に思えます。ところが、今回合成に成功した発光材料は、このルールに反して二色発光(デュアル発光)するのです(図1:分子の構造)。図2左に示したのが通常の青紫発光のスペクトル(一色の発光)、右が今回合成に成功した金(I)系分子の示す白色光のスペクトル(二色の発光: デュアル発光)です。左の山は一つですが、右は山が2つあることがわかります。青紫発光とオレンジ発光が同時に起こるため、合せて白色の発光として観測されるのです。
 反カシャルールと呼ばれるデュアル発光のメカニズムの解明は、とても難しいと考えられていますが、意外なところから突破口が開けました。液体窒素温度まで冷やすと、発光色が青紫の一色発光へと変化すること(図3)を見出したのです。このことからオレンジ発光は発光する際に分子の構造が変化するのでは?と推論し、分光学的学データからのキネティックモデルを立て、量子化学計算により裏付けを行いました。最終的には熱平衡に達した2つの構造の異なる励起状態から発光するメカニズムの提案に至りました(図4)。

 表紙は、左側にデュアル発光(白色光)した分子で昼をイメージし、中央に氷中の動けない分子(青紫発光)で夜をイメージして制作したとのことです。

(教育研究推進室)

※1
https://www.nit.ac.jp/education-research/research/activities05
https://www.nit.ac.jp/education-research/research/activities03
https://www.nit.ac.jp/education-research/research/activities02

※2
電子励起した分子の光化学に関する法則である。1950年にアメリカの分光学者マイケル・カシャにより提唱された。

図1 :デュアル発光材料

図2:(左)青紫発光、(右)デュアル発光(白色)

図3:デュアル発光の温度変化

図4:発光メカニズム

大澤先生の写真.jpg

【大澤先生より】
本成果の一部は、本学大学院工学研究科 環境共生システム学専攻を昨年度修了した相馬咲絵さんが合成を行い、現在同専攻1年生の小林弘幸さんが修論のテーマとして引き継いだものです。ここに謝意を示します。また、X線構造解析とNMR測定でお世話になりました東京工業大学化学生命科学研究所・田中裕也博士に感謝申し上げます。

過去の掲載記事