理論核物理

梅谷 篤史 准教授

Laboratory

研究室紹介

世の中の物質を構成する原子は、その中心に正の電荷をもつ原子核があり、そのまわりを負の電荷をもつ電子がまわっているという構造を持ちます。さらに原子核は内部構造をもち、複数の陽子、中性子と呼ばれる粒子から構成されています。原子核には様々な種類があることが知られていますが、これらの構造や構造を支配する力(核力)はまだ完全には解明されていません。当研究室では、原子核の構造を解明すべく、数値計算の手法を駆使した研究を行っています。

主な研究紹介

殻模型を用いたハイパー核の生成・構造・崩壊の理論研究

原子核は通常、陽子・中性子と呼ばれる(あわせて核子と呼ばれる)粒子が多数集まって構成されていますが、ここにハイペロンと呼ばれる別の粒子が加わった原子核の存在が確認されており、ハイパー核と呼ばれています。核子とハイペロンの間に働く力と、核子間に働く力はともに、より基本的な力である「強い力」から導かれるとされていますが、まだ統一的な理解には至っていません。また、ハイペロンは中性子星と呼ばれる天体の内部に存在し、中性子星の構造に影響を与えていると考えられており、ハイペロンに働く力の解明が急がれています。

地球上にはハイパー核は自然には存在していません。また、生成されても地球上では不安定ですぐに崩壊してしまいます。そこで、巨大な加速器を用いた実験によって、ハイパー核を大量に生成し崩壊するまでを追うことにより性質を明らかにしようとしています。日本では茨城県東海村にあるJ-PARCでハイパー核の生成実験が進められています。

実験結果を予測するためには、また、実験結果を検証するためには、理論研究がかかせません。当研究室では、原子核の構造理論で成功をおさめてきた殻模型の手法を用いて、ハイパー核の構造をあらわす波動関数を求め、得られた波動関数を用いて、生成断面積などの観測量を理論的に導き出しています。

核力の系統的な研究

原子核は10のマイナス15乗メートルという非常に小さな存在ですが、その構造はとても複雑です。実験の進展により、現在はさまざまな構造が知られていますが、安定な原子核の多くは殻構造をしていると考えられています。

原子核の構造は核力によって決まっているといえます。ところが核力は非常に複雑です。核力は中心力、テンソル力、スピン軌道力にわけることができますが、さまざまな核子数の原子核に対して、それぞれの力がどのような役割を果たしているのかを系統的に理解することが、原子核の構造理解に不可欠です。

 当研究室では、多重極展開と呼ばれる方法や、スピンテンソル分解と呼ばれる方法などを用いて、核力を様々な視点から分析しています。とくに核力のそれぞれの成分がどのように殻構造の形成に寄与しているのかを、系統的に調べています。

物理に興味のある学生へ

工学を学んでいく上で物理学の知識は欠かせません。そのため、すべての学科に物理学の授業が設けられ、大学に入学した年度に履修することになっています。専門知識の土台としての物理学の基礎を身につけるためです。一方、物理学自身が、まだまだ解明されていない部分も多く、大変興味深い学問分野です。物理学に興味があり、発展的な内容にふれてみたいと考えている学生は、ぜひ、研究室を訪ねてみて下さい。