先駆物質化学研究室

池添 泰弘 准教授

Laboratory

研究室紹介

私たちの研究室のテーマは、化学物質の新機能を開拓することです。「化学物質を扱う人は誰もがそうなのでは?」と思うかもしれませんが、ここでは、積極的に「未知の分野」に飛び込んで、新しい研究を切り拓いていくことを強調するために、あえて開拓という言葉を使いました。まさに先駆者の精神です。

これまで、半導体デバイスへの応用を狙ってタンパク質分子を基板に並べる方法を開発したり、分子で0と1の2進数を作って分子レベルでの乱数発生器を作ったり、金属イオンと有機物で出来た多孔性の材料に生物由来の自己集合性分子を埋め込んで高性能の化学モーターを作ったり…etc、実に様々な観点から化学物質の新機能の開拓に取り組んできました。いずれも、学校で習う化学の単純な延長線上にあるものではありません。物理、生物、数学など、様々な学問領域に興味を持ち、それらと化学を結び付けたことが成功へつながっています。

最近では、物体を磁場中で浮上させ、光を使って操作する技術の開発にも取り組んでいます。磁気浮上は、私たちが真に世界に先駆けて開発してきた磁気浮上の原理である「磁気アルキメデスの原理」によって実現されます。一方、光の効果は私たちにとっては未知の領域です。実験は、見ているだけでもドキドキするようなとても面白い実験で、現在着々と研究が進んでいますので、近いうちに面白い映像をお届けできるでしょう。

上の例のように、私たちの研究は、視覚に訴える実験が多いという特徴もあります。一見「小学校の理科」の大学バージョン程度に見えるかもしれませんが、決して幼稚なサイエンスではありません。未知の分野に飛び込んでいくとき、専門外の人にも研究内容を理解してもらえるように工夫した結果そうなったのです。目で見えるものは、興味も面白さも倍増します。是非、私たちと一緒に化学物質の中に潜む世界を切り拓いていきましょう。

主な研究紹介

磁気科学

鉄が磁石に引き付けられるのはよく知られています。でも、物体が磁石に反発するのを見たことがある人はほとんどいないでしょう。実は、身の回りの多くのもの、例えば、銅、ガラス、水、油、プラスチック、木、などは磁石に反発します。そのような物の性質を反磁性*1といいます。しかし、反磁性物質が磁石に反発する力は極めて小さいので、通常、見ることは出来ません。磁気科学は「磁気アルキメデスの原理」を利用して、そのような小さな力を目に見えるようにできる技術で、本研究室で開発された技術です。

アルキメデスの原理は重力における浮力の原理ですが、磁気アルキメデスの原理は、磁力における浮力の原理です。重力の影響しか考えなかった場合、気体が液体に与える浮力によって、液体が持ち上がることは絶対にありません。しかし、磁力の影響を考えると、気体が液体に与える「磁気的な浮力」が生じて、液体が持ち上げられてしまうことがあります。それを可能にする気体が酸素です。酸素は、生物にとって不可欠なだけではなく、磁石に強くひきつけられるという珍しい性質を持った物質なので、巨大な浮力を生み出します。この技術を用いれば水を磁石で浮かせることも可能です(写真)。他にも、国内外で、磁気分離や材料プロセスなど様々な応用研究が展開されています。

*1 磁石の同じ極(NまたはS)同士を近づけると反発しますが、向きを固定しておかない限り、クルッと反転してお互いに引っついてしまいますので、これは真の意味での反発ではありません。反磁性物質は、どんな向きで磁石を近づけていっても反発します。)

生体材料の自己組織化

生体材料の代表例であるタンパク質は、分子量が何万~何十万といった巨大な物質で、大きさも数ナノメートルから中には10ナノメートルを超えるものもあります。そのような物体をつくるのに、化学反応を利用する、あるいは、大きなものから削り出してつくる、といった方法を用いると、個々の粒子のサイズや形にばらつきが生じます。研究で用いるタンパク質分子は、大腸菌の中で酵素分子がアミノ酸分子を一つずつつなげる反応によって作られます。DNAの配列に従って作られるので、極めて精密な化学合成です。したがって、全く同じ形・大きさの分子が生産されることになります。そんな分子のうちでも、フェリチンは金属ナノ粒子を内部に含むとても面白いタンパク質分子です。

私たちは、金属(インジウム)のナノ粒子を内部に持つフェリチンを用いて、2次元の分子自己組織化構造を作製しました。フェリチンの水溶液をシリコンの基板の上で乾かしただけで、勝手に分子が整列し、分子1枚の層ができるのです。実験をした本人も驚くような衝撃的な実験結果でした。10ナノメートル程度の分子がきれいに並んでいたのです(写真)。

また、フェリチンの内側の空洞の中身が異なる2種類のフェリチンを混ぜて自己組織化構造を作ると、分子は整然と並んでいるけれども、2種類の分子の配列はバラバラになることもわかりました。ここでの分子の配列を予測することは絶対に出来ません。また、同じものをもう一度作ることも絶対に出来ません。したがって、真の乱数発生器として機能するナノスケールの乱数発生装置を作ることもできます。

MOFとペプチドの化学モーター

MOFとはMetal Organic Frameworksの頭文字をとったもので、近年盛んに研究されている物質の総称です。多孔性且つ結晶性の高い有機金属配位化合物で、この物質の構造からすぐに想像できる応用技術は、物質を貯蔵する、物質を分離する、微細な反応容器として用いる、といったところでしょう。実際に、極めて多くの論文が報告されており、近い将来、この分野の研究者にノーベル賞が与えられることになるでしょう。わたしたちは、MOFを全く違う観点からとらえ、新しい応用例を発見しました。それがMOF-ペプチド化学モーターです。

このモーターは、MOFの中にジフェニルアラニンというペプチドを入れただけのものですが、水の上に浮かべると、MOFの中からジフェニルアラニンが出てきて、結果として水面上をMOFの粒子がクルクル動き回ることになります。ここで、ジフェニルアラニンが表面ですぐに結晶化するので、水面が正常なままの状態で保たれ、非常に長い間モーターが動き続けるということがわかりました。この化学モーターは、1㎜ほどの大きさですが、発電機や化学物質の探知機としても使うことができ、非常に優れた機能を持つ化学モーターであることがわかりました。