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基幹工学部応用化学科大澤正久教授らの研究成果がDalton Transactionsに掲載されました。

 応用化学科大澤正久教授らが、特定の有機分子を選択的に取り込みかつ発光色変化で応答するセンサー材料の合成に成功し、その発光色が変化するメカニズムを明らかにしました。本成果は英国王立化学会の無機化学系専門誌の中で最も権威があるDalton Transactionsの裏表紙に採択されました。昨年度に続いての掲載です。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/dt/c9dt01373c#!divAbstract

 我々ハイブリッド材料研究室1)では外部刺激(すりつぶし、有機分子の接触、温度(熱)、など)によって発光色が変化するセンサー材料の開発を行っています。その中でもある特定の有機分子に対して応答可能な材料の開発は、分子認識という観点から注目され、活発な研究が行われています。
 今回我々の分子設計のコンセプトは、発光材料の有機配位子を化学修飾し、“分子認識のためのホスト空間2)を分子間に創る”というものです。図1に示すように従来の有機配位子を嵩高いターシャリーブチル基で化学修飾することで分子間に疎水的空間を創り出すことに成功しました(図2)。さらにこの空間を使った種々のアルカン3)に対する認識能を試したところ、ノルマルヘキサン(炭素の数が6個のアルカン)のみをその空間内に取り込み、かつ発光色が強い緑発光から弱いオレンジ発光へと変化することが判明しました。図3は炭素の数が5~10のアルカンに対する応答を示しています。炭素の数が5,7,8,9,10のアルカンは取り込まれることはなく強い緑発光を示しますが、炭素数6のヘキサンを加えたサンプルのみが弱いオレンジ発光を示します。構造解析の結果からヘキサンが分子間に取り込まれていることが明らかとなり、また取り込まれたヘキサンが発光分子の構造を大きく歪ませることにより発光色変化が引き起こされることが分かりました。枝分かれ構造を有したアルカンも取り込まれることはなく、高い選択性が明らかとなりました。
 表紙の絵は、2つの分子の間にノルマルヘキサン分子が取り込まれ発光色が変化する様子をイメージしています。
 今回論文中で示した分子設計指針を基に、様々な有機分子の認識にチャレンジして行きたいと考えています。

本成果の一部は、平成28年度卒業生の山吉寛人さんが卒業研究として行ったものです。ここに謝意を示します。また、X線構造解析と温度可変NMR測定でお世話になりました東京工業大学化学生命科学研究所・田中裕也博士に感謝申し上げます。最後に、裏表紙(art)の製作にご協力いただいた入試室・小池奈津子さんにお礼申し上げます。

1) ハイブリッド材料:金属と有機物(有機配位子)を組み合わせた材料
2) ホスト空間:鍵と鍵穴のように高選択性を表す場合の鍵穴に相当する部位
3) アルカン:脂肪族飽和炭化水素

図1 有機配位子部位の化学修飾:(左)置換基導入前、(右)導入後
図2 ホスト空間:(左)置換基導入前、(右)導入後
図3 種々のアルカンに対する応答