日本工業大学

SDGs関連研究

2022/08/05

地球にも人にもやさしい「暮らし」をデザインする ~第3回「地産地消の家づくり/百年建築」~

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 現在、世界的に水不足が深刻であり、ウォーターエイドジャパンの活動レポートによると、7億7,100万人が清潔な水を利用できておらず、不衛生な水やトイレ、衛生教育が行き届いていないことによって、毎年289,000人の子供たちが下痢で命を落としていると報告されています。一方、日本では公共下水道の普及により、便器のレバーをひねると汚物が消えてなくなる便利な生活に慣れています。また、住まい手と家の関係も変化してきました。建物の寿命は短く、古くなった家を大事に手直ししながら住み続ける暮らしが急速に失われつつあります。
 しかし、このような大量消費を続ける便利な暮らしは、大きな災害などに直面すると限りなく無力になります。これからは、生活インフラ(上下水や電気など)に頼らなくても工夫して暮らしを継続できる力(生活力)がますます必要となるのではないでしょうか?
 樋口研究室では、水道水や電気などの生活インフラに頼らない(オフグリッド)暮らしの提案に取り組んでおり、昔ながらの「環境に負荷をかけない暮らしの工夫」に、少しのアイデアを足して、「将来の技術」を創り出すことを常に心がけています。このようなプロセスによって生まれ変わる技術は、発展途上国への普及はもちろん、日本における災害時利用にも繋がります。
 詳細ページでは、このような環境に負荷をかけない暮らしの研究として、水も電気も使わない「コンポストトイレ」、自然素材の竹を使って台所排水や尿を浄化する「竹式傾斜土槽システム」、手直ししながら住み継ぐ地産地消の家づくり「百年建築」について紹介します。

 

建築学科生活環境デザインコースの樋口佳樹教授は「地球に優しく、人々を豊かにする社会を目指して」をテーマに掲げ、環境保全と快適な暮らしが共存する住環境の研究を行っています。

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環境に負荷をかけない快適な暮らしのイメージ図(画:樋口教授)

 

◆ 樋口佳樹 教授のSDGs関連研究について         
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◆ 樋口佳樹 教授の教員紹介について         
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    ◆ 建築学部 建築学科 生活環境デザインコース 樋口佳樹 教授 ◆
 
 ▪詳しい教員紹介は
こちら


樋口研究室の第3回(全3回)として「地産地消の家づくり」と「百年建築」を紹介します。
百年建築は、中小築古ビルの改修工事から運用、廃棄まで、地球にやさしく、人にやさしい改修を目指しています。


(1)百年建築の健康オフィス・健康マンション
「いえ」のような「仕事場」をめざして
樋口研究室では、住宅のようなデザインをオフィスに取り込むという考え方をベースとして、以下5つのコンセプトに基づいて古い建物の改修に取り組んでいます。

1. 使い続ける百年改修
すぐに新しいモノに切り替えるのではなく、メンテナンスしながら使い続ける。
2. 省エネルギー
熱負荷シミュレーションにより、最適な断熱改修と高効率設備機器を導入し冷房、暖房、換気の消費エネルギーを削減する。
3. 地産地消
資材調達には地元の材料を使い、輸送によるCO2を削減するとともに、地域産業の活性化にも貢献する。
4. 快適性
内窓と高性能断熱スクリーンによって開口部の熱性能を改善して室温のムラを抑えるなど、快適な生活空間づくりに努める。
5. 健康
無垢の木材と漆喰による自然素材に包まれた空間により、良質な空気質を追及し、働く人の健康を守る。また、緑を室内に取り込むことで、木と緑に囲まれた空間により、職場に安らぎをもたらす。

 

(2)伝統的構法による自然素材を用いた地産地消の家づくり
「働く家」のすゝめ。
樋口研究室では、人が何もしないで済むことを目指す家よりも、人が楽しく働くことによって元気になる家を目指しています。

1. 「壊れやすいモノ、そばにあるモノ」でつくる
家づくりは自然を壊す行為でもあります。自然の一部を借りて、自然の力を借りるという意識が重要と考える。
2. 「手間を省く」から「ひと手間かける」へ
家と住まい手の良好な関係、すなわち住まい手は家に生命を守られ、住まい手に家をいたわる気持ちが芽生えるような関係が大切。欠かせない要素は「ひと手間かけること」であると考えている。
3. 自然の一部を借りて、自然の力を借りるという意識が重要
人の欲望を満たす「エゴロジーで快楽な暮らし」から、地球にやさしく人にやさしい「エコロジーで快適な暮らし」へ。

 

(1)百年建築の健康オフィス、(2)地産地消の家づくり、この2つの建築事例として、都内のオフィス改修例を紹介します。

●建築事例
モンド梅が丘5F 東京都世田谷区 1986年竣工
床面積101.3㎡ 鉄筋コンクリート造

オフィスなどが入るビルの1フロアを改修。特徴としては、内装に合板を一切使用せず、東京産の木材、漆喰などの自然素材のみで内装が仕上げられています。また、新たに設置されたサンルーム、屋上のデッキにも木材が多用されています。
木材を用いることで、落ち着きや温かみのあるイメージを演出できるとともに、時間が経っても劣化が際立たず、むしろ味わいが出てくるというメリットもあります。無垢の木材と漆喰による自然素材に包まれた空間は良質な空気質をつくり出し、一部の有害物質を吸着する機能も併せ持ちます。このほか、天井をスケルトンにすることで、電気や配管などのメンテナンス性を確保しています。

改修されたフロアは賃料が1.7倍に値上げされたにも関わらず、売出即日にIT企業のオフィスとして契約が成立しました。借主の社長は「当社には小さな子供を持つ社員も多数在籍しており、子どもを連れて出社しても、このオフィスなら安心して床で子供を遊ばせることができる。仕事の息抜きにテラスで寛ぐこともでき、社員自身にとっても理想的な職場環境といえる」と満足げに話しています。樋口研が目指す「いえ」のような「仕事場」が実現した一例といえます。

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(クリックすると拡大します)
 


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■その他の改修部分

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●今回の研究をSDGsの視点からみると・・・

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今回紹介した地産地消の家づくり、百年建築は、土地や資源に負担をかけずに安全で快適な住居、ひいては都市を維持していくための解決方法の1つを提案しています。地域の材料を積極的に利用することで輸送によるCO2を削減でき、森林環境の保全活動に貢献します。

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