アメリカ⽂学

⼀瀬 厚⼀ 講師

Laboratory

研究室紹介

アメリカ文学を研究しています。特に19世紀の作家であるラルフ・ウォルド・エマソン(1803-1882)を研究しています。また比較文学や世界文学などの領域にも関心があり、この領域を代表する作家の一人であるホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)も研究しています。

主な研究紹介

 ラルフ・ウォルド・エマソンは19世紀のアメリカで発展した「超絶主義」運動(Transcendentalism)を代表する思想家であり作家の一人でした。エマソンを含め、当時の作家たちはイギリスからどのように知的に独立していくのかということを考えていました。その結果としてエマソンは超絶主義運動を起こし、それまでのアメリカが所持していたキリスト教的価値観を覆すかのように、「個人の無限性」(“the infinitude of private man”)こそアメリカに必要なイデオロギーであると考えていました。このようなエマソンの思想の源泉の一つとして、彼がユニテリアン(キリスト教プロテスタントの宗派の一つ)であることが挙げられます。ユニテリアンというのは、当時(現在もですが)のアメリカにおいて少数派で革新的な人たちでした。実はこのユニテリアンという宗派は、日本と大いに関係があります。⽇本は明治維新の後、⻄洋列強との知的・⽂化的・経済的交流を推し進めていました。その中で問題となったのがキリスト教をどのように扱っていくのかということです。日本古来の神道や仏教勢力は、カトリックやプロテスタントとは思想的に相容れないため、キリスト教の受容に否定的でしたが、これらの勢力が唯一認めたキリスト教宗派がユニテリアンでした。その理由を簡潔に述べると、ユニテリアンは神道や仏教と共通する要素があると、日本古来の宗教を信仰していた人たちが認めたためです。話を戻すと、ユニテリアンであるエマソンは、アメリカのためのイデオロギーを生み出そうとしていましたが、実はそれらのイデオロギーは純粋にアメリカ独特のイデオロギーであるだけでなく、他の国のイデオロギーと類似していたのです。ここにユニテリアンの特色とエマソンの思想の国際性が窺えます。エマソンの思想がアメリカそれ自体のイデオロギーの形成だけでなく、様々な国々の様々な思想の形成に影響を与えていると考えられ、この点に特に着目して研究しています。
 また、エマソンの思想の影響を色濃く受け、「世界文学」というジャンルを形成したボルヘスについても研究しています。ボルヘスはそれぞれの国が所持する文学(いわゆる国民文学)からさらに視野を広げ、国民文学の共通因数のようなもの、すなわち文学というジャンルはどのようなものかを考えていました。ボルヘスの文学観や、作家とはどのような存在か、書物はどのように生成されるのか、などの問題圏は実はエマソンの影響を受けているのではないかと考えています。このような視点に立脚して、エマソンを世界文学の中でどのように位置付けるのか、エマソンが世界文学にどのような影響を与えているのかをボルヘスを介在させることで研究しています。