物質科学

鳥塚 潔 講師

Laboratory

研究室紹介

様々な固体物質が極低温、強磁場、超高圧などの極限状態のもとで、どのような性質を示すかを研究しています。対象となる固体物質は、有機物、無機物を問わず、様々な物質について実験的研究を行なっています。

主な研究紹介

磁気トルク法による磁性研究

原子間力顕微鏡(AFM)用カンチレバー(片持ち梁)を用いた磁気トルク法により、磁性体の磁気トルクを測定しています。この実験手法は、カンチレバー(長さ0.4 mm)先端に付けた試料の質量が1μg程度(電子天秤で測定限界の質量)でも重力によるカンチレバーの曲がりを検出できるほど感度が高いものです。

これまでの研究により、カンチレバー特性を、カンチレバー自身の機械的性質に由来する部分とピエゾ抵抗係数のバラつきに由来する部分に分けることによって較正する方法を確立し、トルクの絶対値(J/rad mol)を求めることができるようになりました。試料に磁場を印加しその向きを回転させながらトルクの角度依存性を測定すると、磁化に対する結晶内でのポテンシャル分布を測定できます。また、一般的に、低温にすると高温では見えなかった超微細相互作用などの弱い相互作用が見えてくるので、感度の高いトルク実験は、物質の性質を探求するのに適しています。

図1(左):長さ0.4mmのカンチレバーの先端に、0.35×0.25×0.2mm3ほどの(無機の)試料が付けられています。
図2(右):有機分子性導体TPP[Mn(Pc)(CN)2]2について、c軸を含む平面内で磁場を回転した時のトルク信号の角度依存性。

熱伝導度による微視的性質の探求

熱伝導度測定は、熱のキャリア自身をプローブとして試料の微視的性質を調べる手法です。フォノンがキャリアであれば、結晶構造の変化を敏感に感知でき、スピンPeierls転移など構造相転移を捉えることができます。超伝導体であれば、Tcにおいてフォノン-電子相互作用が変化するので、熱伝導度にも変化が現れます。他の熱励起(量子スピン系におけるマグノン等)が存在すれば、それも熱伝導度に反映されます。このように、熱伝導度から得られる情報はその物質の微視的性質を探る上で大変有用です。

これまでの技術開発により、電気的リード線を伝わって流れる熱をも考慮した測定ができる新しい装置を開発し、これによって室温から低温まで(2K≦T≦300K)の広い温度範囲にわたって測定ができるようになりました。しかも0.1~1 W/K・mの高感度の測定を行うことができます。

図3(左):熱伝導セルのスケッチ。試料は長さ約1mmで針状の形状。2つの温度計の間に橋渡しになっています。
図4(右):有機分子性導体スピンPeierls物質(DMe-DCNQI)2Li1-x Cux(x=0, 0.08, and 0.14)の熱伝導度の温度依存性。

こうした磁気トルク法と熱伝導度による技術力をベースにして、当研究室では、有機分子性結晶の低温物性を研究しています。フタロシアニンは、染料・顔料として工業生産されている物質ですが、物性としては、一つの分子内に磁性を担うd電子と電気伝導を担うπ電子が共存し、両者が相互作用することにより、負の巨大磁気抵抗を示すなど、興味深い性質を示す物質です。巨大磁気抵抗のメカニズムの探求は、大きな研究テーマです。

また、最近は、無機物質のトルクについても研究しています。磁気スピン構造が複雑な配置を示す試料はいくつもあります。そのような試料では、どのようなトルク信号が見えるかを調べています。

図5(左)[Mn(Pc)(CN)2]の分子構造。平面上のフタロシアニン(Pc)面の中心に磁性原子であるMn原子があり、その上下にCN基が突きだしています。
図6(右)71°のふれ角で振動する単振り子の角度の時間変化。三角関数よりは楕円関数でよくフィットできます。

数学に見られる特殊関数を理解するための実験教材の開発

工学部系の応用数学では、様々な特殊関数が現れます。三角関数sin, cosならだれでも関数の概形をイメージできますが、特殊関数はなかなかその概形をイメージしづらいものです。当研究室は、そうした難点を克服するための実験機器の開発を手掛けてきました。その一つとして、楕円関数を取り上げて、振幅の大きい単振り子の振れ角の時間変化を視覚化し、楕円関数でよく記述できることがわかるような実験方法を開発しました。

こうした実績をベースに、さらに特殊関数の現れる物理現象に注目して、そのふるまいを理解しやすくするような教材を開発しています。