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ブランディング事業事業報告・プレスリリース

事業成果

事業成果

 本事業は学長のリーダーシップの下、小規模ながらもその規模に合ったスケールでの工学研究に邁進し、全固体電池という特定分野で世界をけん引する実力を備えた大学をめざして実施した。
 まず初めに大学公式ホームページ内に本事業に関するページを開設し、事業概要等を公開した。続いて、次世代蓄電池開発における電池材料薄膜の作製に必要な装置の導入を完了させ、導入した装置を利用して正負極ならびに固体電解質の薄膜作製に取り組み、全固体電池作製のための準備を進めた。さらには薄膜型全固体電池を作製してその電池評価を行った。
 上述の一連の取組は、定期的に自己点検評価及び外部評価を実施し、進捗状況等に関する評価を受けつつ行うとともに、成果については論文、学会発表セミナー等で広く社会に発信した。
 また、私立大学研究ブランディング事業の経費は次世代蓄電池の研究環境整備費用(電池材料の薄膜合成ならびに薄膜型全固体電池の作製に必要な消耗品購入費用含む)ならびに、研究の意義、研究計画、研究に必要な装置、事業成果等に関して情報発信を行うための広報普及費用として使用した。

具体的な事業成果は以下のとおりである。

(1)薄膜型全固体電池作製・評価システムの構築
 電気自動車の車載用途や定置型蓄電池として、大型リチウム電池の利用が期待されている。しかしながら、現在実用化されているリチウム電池は、可燃性の有機電解液を使用しているため、発火の危険性を秘めており、安全性の点から大型化に問題がある。そこで注目を集めているのが全固体電池である。全固体電池は、電池を構成する正極、負極、電解質の3つすべての部材が不燃性固体で構成されているため、高い安全性を有する。
 電池は、正極、負極、電解質の3つで構成される。そして、全固体電池と既に実用化されている液体電池の大きな違いは、(1)固体電解質を利用していること、(2)リチウムイオンが固体電解質と正極の固体と固体の界面を移動していること、の2点である。すなわち、全固体電池の実用化への課題は、(1)リチウムイオン伝導性の高い固体電解質の開発、(2)固体電解質と正極における低抵抗界面の形成、の2点に集約される。本事業では、固体電解質として酸化物系に着目した。酸化物固体電解質は、その他の硫化物系や樹脂固体電解質と比較して、耐熱性や耐水性に優れており、電池形成プロセスに適用したときのハードルが低いとされている。
 全固体電池はバルク型と薄膜型に大きく分けることができる。全固体電池研究の多くは粒状の電池材料から構成されたバルク型電極を用いて展開されているが、薄膜型はすべての部材が固体で構成される全固体電池だからこそ作製できる電池である。本事業では、正極、固体電解質、負極の薄膜を積層した薄膜型モデル電池を作製し、界面抵抗に関する研究に取り組んだ。電池反応を微視的視点から明らかにして高性能全固体電池の実用化へ貢献することが本事業の大きな目標である。
 本事業では、まず、全真空プロセスによる薄膜型全固体電池作製・評価システムの構築を行った。本システムは、電動型の試料搬送室を中心に、パルスレーザー堆積法(PLD)、スパッタリング法、真空蒸着法による成膜室、マルチナノプローバーを備えた電気化学評価室およびグローブボックスが取り囲むクラスター型の構成となっている。本システムの特徴として以下の5点が挙げられる。

・ 電池材料の薄膜作製
 PLDではNd:YAG固体レーザーを使用し、第4高調波(266 nm)と第5高調波(213 nm)の切り替え、さらにはスパッタリング、真空蒸着装置を装備することにより、ほぼすべての電池材料の薄膜作製を可能にする。
・ 全真空プロセス
 グローブボックスを除くすべてのチャンバーが超高真空環境で接続されており、試料の作製から評価まで一度も大気に触れずに行うことが可能である。界面形成時に不純物の混入がないため、理想的な清浄界面を形成できる。
・ 液系電池の作製と評価 グローブボックス内では、全固体電池の電気化学評価だけでなく、電解液を用いた液系電池を作製し評価・比較を行うことが可能である。
・ クラスターシステム クラスター型システムは、インライン型の生産・評価システムに比べて省スペースで稼働できる。また、合成・評価プロセスの可変性と自由度が高いシステムである。
・ 電動型試料搬送システム 全固体電池の作製から評価までを全自動で高速に行うことができる。また、高い再現性と信頼性を維持した実験が可能である。将来的には、パソコン制御による全自動化に留まらず、機械学習を利用した実験ロボットへの展開が可能である。

上記の薄膜型全固体電池作製・評価システムを用いて、以下の実験研究を行った。

(2)電池材料の薄膜合成
 全固体電池の特徴の一つとして、高電圧が挙げられる。そこで、5V級正極材料ニッケルマンガン酸リチウムの薄膜合成を行った。RFスパッタを用いて、111配向したエピタキシャル薄膜の合成に成功した。エピタキシャル薄膜は結晶性の薄膜であり、単結晶基板に材料を堆積させて作製する。その成長は基板の材料、格子定数、面方位等に強く依存し、基板の選択と薄膜作製時の実験条件の調整によって様々な結晶配向を持つエピタキシャル薄膜を作製することができる。その他、大気中で化学的に安定なナシコン型固体電解質の薄膜作製を行った。スパッタリング法を用いて薄膜を作製し、大気中での加熱処理によりナシコン型固体電解質のエピタキシャル薄膜を合成できることを明らかにした。また、アモルファス薄膜がバルクと同程度の高いイオン伝導度を示すことを確認した。

(3)固体電解質/電極界面の構造解析
 PLDを用いて正極活物質コバルト酸リチウムのエピタキシャル薄膜を作製し、さらには固体電解質リン酸リチウムならびに負極リチウムの薄膜を積層して薄膜型の全固体電池を作製し、その電気化学評価を行った。固体電解質の成膜では、PLDレーザーの成膜条件を調整し、薄膜型全固体電池で安定な充放電反応が観測されるとともに、交流インピーダンス測定により、極めて低い電解質・電極界面抵抗を得ることに成功した。 次に、X線結晶トランケーションロッド散乱測定により、低抵抗界面と高抵抗界面の界面構造の違いを調べた。その結果、界面近傍の電子密度プロファイルを比較すると、低抵抗試料では、コバルト原子層の鋭いピークの両側に酸素原子層に相当するピークが観測されるのに対して、高抵抗試料における界面近傍のピークはブロードであり、低抵抗試料と高抵抗試料の界面で大きな違いがみられた。以上の結果は、低抵抗界面では、界面での原子配列がより規則的であることを示しており、電解質・電極界面形成時の原子配列の乱れをいかに抑制するかが重要であることが明らかとなった。

(4)高電位正極材料用いた薄膜型全固体電池の作製と評価
 PLDを用いて5V級正極活物質ニッケルマンガン酸リチウムのエピタキシャル薄膜を作製し、さらには固体電解質リン酸リチウムならびに負極リチウムの薄膜を積層して薄膜型の全固体電池を作製して、その電気化学評価を行った。その結果、サイクリックボルタンメトリー、充放電測定により、Niの2価⇔3価、3価⇔4価の酸化還元反応ピークを観測し、100サイクルまで容量劣化することなく充放電反応が正しく行われることを確認した。薄膜電池の良好な電池動作を確認した後、交流インピーダンス測定を行い、リン酸リチウム/ニッケルマンガン酸リチウム界面抵抗の定量評価を行った。その結果、反応電位における電解質/電極界面抵抗はおよそ5 Ωcm2であり、これまでに報告されている液体電解質を用いたときの電解質/電極界面抵抗を下回ることが分かった。
 つづいて、低抵抗界面を有する薄膜電池を用いて高速充放電試験を行った。1C、10C、100Cでの放電容量に大きな変化は見られず、また1000Cで1Cのときの70%、3600Cで50%の放電容量を得ることができた。さらに3600Cで100サイクルの充放電を繰り返しても、充電および放電の容量変化はまったく観測されなかった。電極/電解質界面の界面抵抗を低減することにより、全固体電池の高速充放電が実現可能であることを実証することができた。

(5)成果発表および情報発信
 事業成果等に関する発表実績件数は、平成29年度が学会・セミナー等での発表7件、電池に関する出前授業1件、論文・著書出版7件、平成30年度が学会・セミナー等での発表12件、電池に関する出前授業1件、企業向け講演会4件、論文・著書出版8件、プレスリリース2件、新聞掲載5件、学術誌での本学ブランディング事業紹介1件、令和元年度が学会・セミナー等での発表9件、その他、電池に関する公開授業1件、論文・著書出版5件、学術誌や企業ホームページでの全固体電池研究紹介2件である。尚、事業期間中の学会・研究会招待講演は8件、企業向け招待講演会は7件であった。
 また、事業成果については学術論文や学会での発表、企業向けセミナーでの講演だけでなく、プレスリリースを行い、新聞紙に研究成果を紹介される等の目に見える結果を得ることで、本学の認知度向上に貢献した。さらに直接プロモーションとして、一般の人向けには東武線車両内での研究紹介ポスター掲示や全国放送でのラジオインタビュー、高校生向けには高校への出前授業や東京ビックサイトでの公開授業イベント、企業向けの研修セミナーなどにおいて全固体電池研究の魅力等を講演することにより、広く社会からの共感を得た。 以上、これらの継続した一連の研究ブランディング活動は、本学への志願者の増加等、ステークホルダーからの評価にも着実に結びついており、ステークホルダーに対する本学のブランドイメージ形成にも大きく貢献した。

(6)私立大学研究ブランディング事業に関する経費
・実験装置
 薄膜型全固体電池作製・評価装置、3元スパッタ装置
 リチウム蒸着装置、UHV用ナノプローバー
 自動コインセルかしめ機、不活性ガス循環精製装置
 ジルコニア式酸素濃度計、静電容量式露点計
 ドライポンプ、レーザーパワーメーター
・消耗品
 酸化物単結晶基板、コインセル部品、真空部品
 PLDターゲット、スパッタターゲット、溶接機
 ガス、その他
・旅費
 電池討論会、応用物理学会、日本表面真空学会ほか
・実験装置修理
 試料搬送機構修繕費
・広報普及費
 本事業に関するホームページ開設・更新ほか

今後の事業成果の活用・展開

 本学が取り組む全固体電池は、長距離走行を可能にする電気自動車や災害などの緊急時に使用する大型バッテリー、宇宙ステーションなどの宇宙空間での利用のほか、折り曲げ可能な薄膜電池として使用することが期待されており、将来の新基盤技術をけん引する大学として、本事業が終了する次年度以降も、本研究を発展的に更に推進し、ホームページ等での発信と直接プロモーションを通じて、ステークホルダーとの双方向のコミュニケーションを取り共感を高めるとともに、電池関連企業と協力しながら全固体電池の実用化に向けた研究を加速させる予定である。
 本事業では、次世代蓄電池として期待される新しいタイプの全固体電池の実用化に向けて、従来の液系電池で行われてきた手法、内容とは大きく異なる研究アプローチで成果を挙げてきた。一方、この全固体電池を実用化するにあたっては、電池の筐体が必要不可欠である。現段階では、電池材料に関する研究が中心であり、その実用型筐体の形はまだ見えてこないので、その直接的な研究までには至っていないが、本学は応用研究として、機械工学科を中心に筐体を製造する技術である、深絞りや打抜き加工、あるいはプラスチック射出成形、精密切削加工に関する先進的研究が精力的に進められ拠点の1つとなっている。以上の事業を推進させていくことにより、本学ならではユニークなアイデアと実験技術により、全固体電池の実用化に貢献するとともに、新たな研究領域を切り拓いていく。
 また、これら全固体電池に関する基礎研究ならびに実用化に向けた応用研究により、今後の我が国の科学技術を支え、その発展に貢献する実践的技術創造人材の育成をする。
 これらの一連の活動を通して、「将来にわたって実直に基盤技術の開発を実践する姿勢を堅持しつつ、今後の人類社会の変化に応じて、技術で新しい価値を創造する大学」へと引き続き深化していくことをめざす。

進捗状況

令和元年度進捗状況

①事業目的

 将来の人類社会を支える重要な社会基盤の要素である次世代蓄電池を開発し、その応用技術を研究していく。

②令和元年度の実施目標及び実施計画

【実施目標】
 全固体電池の製作プロセス(筐体製作を含む電池全体)技術について検討し、プロトタイプの全固体電池を製作し、その性能や実用化の可能性を明らかにする。
 全固体電池に関する研究成果と実用可能性を企業等に認知させ、実用化研究に移行する体制を整備する。社会向けのシンポジウムや記者会見を開催し、3年間の研究成果と今後の展望と方向性を提言する。

【実施計画】
 新たに開発する全固体電池の実用化のためには、パッケージや端子などの開発が必要である。これまでに得られた研究成果を基に、全固体電池のプロセス技術に関する検討を行う。プロトタイプの全固体電池を製作し、液系電池との比較を行ない、製品たる電池として優位性があることを明らかにする。これにより、全固体電池が、高容量かつ高速充放電が可能な、従来リチウム電池に勝る高性能蓄電池であること、高い安全性を示すことを実証する。
 全固体電池に関する研究論文、他の研究機関と比べた優位性、次世代蓄電池としての可能性などを企業等に認知させ,実用化研究に移行する体制を整備する。そのために、社会向けのシンポジウムや研究成果の記者発表会などを開催し、3年間の研究成果を社会と企業に公開すると共に、今後の実用化研究に向けてのスタートを切る。受験生向けのオープンキャンパスや模擬授業などの取り組みを継続して、社会、企業、受験生層に対するブランドイメージの定着を目指す。

③令和元年度の事業成果

 電池材料の薄膜作製に取り組み、さらには薄膜型全固体電池を作製してその電池評価を行った。また、事業成果について、論文や学会発表等で広く社会に発信した。本年度の具体的な事業成果は以下の通りである。
 スパッタリングや真空加熱蒸着などの薄膜合成技術を用いて、正負極および固体電解質の薄膜作製を行った。5V級の高電位正極ニッケルマンガン酸リチウムのエピタキシャル薄膜を作製し、また真空雰囲気で薄膜型全固体電池を作製・評価して、正極材料の面方位によって界面でのイオン伝導が変化することを見出した。また、室温で化学的に安定なナシコン型固体電解質LATPの薄膜作製に取り組み、イオン伝導の評価を行った。また、より高品質な電池材料薄膜の合成を目的として、薄膜合成中の原子濃度を計測し、緻密な組成、構造制御ができるよう薄膜型全固体電池作製・評価装置のさらなる改良を行った。これにより、イオン伝導性の高い固体電解質の材料開発につなげる。
 事業成果については学術論文や学会での発表、企業向けセミナーでの講演を行い、学術分野ならびに電池業界に携わる企業等に目に見える結果を示すことで、本学の認知度向上に貢献した。
 さらに直接プロモーションとして、一般の人向けには、東武線車両内での研究紹介ポスター掲示や全国放送でのラジオインタビュー、高校生向けには東京ビックサイトでの公開授業イベントにおいて全固体電池研究の魅力等を講演することにより、広く社会からの共感を得た。
 また、これらの継続した一連の研究ブランディング活動は、本学への志願者の増加等、ステークホルダーからの評価にも着実に結びついており、ステークホルダーに対する本学のブランドイメージ形成にも大きく貢献した。

④令和元年度の自己点検・評価及び外部評価の結果

(自己点検・評価)
 本事業は概ね順調に進展した。
 令和元年度は、正極材料や固体電解質の薄膜合成に取り組むと同時に、薄膜型全固体電池を作製し、固体電解質/電極界面のイオン伝導に関する研究を行った。また、本事業の成果として、学会・セミナー等での発表9件(そのうち、学会・研究会招待講演3件、企業向け招待講演会3件)、その他、電池に関する公開授業1件、論文・著書出版5件、学術誌や企業ホームページでの全固体電池研究紹介2件の実績を残した。
 本事業が終了する次年度以降も、本研究を発展的に更に推進し、ホームページ等での発信と直接プロモーションを通じて、ステークホルダーとの双方向のコミュニケーションを取り共感を高めるとともに、電池関連企業と協力しながら全固体電池の実用化に向けた研究を加速させる予定である。

(外部評価)
 2020年夏頃、大阪大学産業科学研究所山下一郎特任教授と、京都大学大学院人間・環境学研究科高木紀明教授の2名の外部評価委員の先生方による本年度の事業成果等に関する評価を受ける予定である。

⑤令和元年度の補助金の使用状況

 本年度は、電池材料の薄膜合成ならびに薄膜型全固体電池の作製に必要な消耗品購入費用として主に使用した。
 具体的には、薄膜型全固体電池の作製を行うための電池材料試薬や、酸素やアルゴンなどの薄膜合成用ガス、薄膜の下地となる酸化物単結晶基板を購入した。その他、故障した試料搬送機構の修繕費用として使用した。

平成30年度進捗状況

①事業目的

 将来の人類社会を支える重要な社会基盤の要素である次世代蓄電池を開発し、その応用技術を研究していく。

②平成30年度の実施目標及び実施計画

【実施目標】
 薄膜型固体電池の製作と電池特性の評価、ならびに機械学習を利用した新規電池材料の物質合成実験を行ない、新規電池材料や薄膜合成条件の絞込みを行ない、世界的に優位な性能を得る。
 薄膜合成や電池材料について受験生向けの情報発信を精力的に行ない、本学が若者に魅力的な研究を開始したことを伝える。理工系分野への興味や本学への入学希望を高めて行く。また、国内外の学会に対して精力的に研究成果を発信し、研究レベルの高さを示す.講演会開催などの方法により直接プロモーションを開始し、共感を得ていく。

【実施計画】
 薄膜を積層して薄膜型の固体電池を製作し、電池デバイスの電池特性評価を行う。特に、高出力を可能にする高電位正極材料や機械学習で得られた新規電池材料を用いてデバイス作製を行い、高性能全固体電池作製のための理論やノウハウを確立する。一方,新物質の合成では、大気安定で高いイオン伝導性を示す固体電解質の合成に関して機械学習を利用した物質合成実験に取り組み、研究を加速させる。
 薄膜合成や電池材料など物理化学の基礎的な内容を中心に受験生向けホームページ、オープ ンキャンパスへの出展、模擬授業などにより、受験生向けの情報発信を精力的に行う。また、国内外の学会への口頭発表や論文投稿を行い、研究成果を発信する。学会や本学による講演会、シンポジウム開催などの方法により直接プロモーションを開始する。

③平成30年度の事業成果

 薄膜型全固体電池を作製・評価するための研究設備を導入した。導入した装置を利用して、電池材料の薄膜作製に取り組み、全固体電池作製のための準備を進めた。また、事業成果について、論文や学会発表等で広く社会に発信した。本年度の具体的な事業成果は以下の通りである。
 正極材料の薄膜合成を行うパルスレーザー堆積法PLD、固体電解質および金属電極薄膜を成膜する3源スパッタリング装置、負極薄膜を蒸着するリチウム蒸着装置、コインセルを作成するグローブボックス、ならびに真空中でイオン伝導計測や全固体電池の充放電試験を行うナノプローバーを導入し整備した。電池は大きく正極、電解質、負極の3つで構成される。各薄膜の作製に取り組み、全固体電池作製のための準備を整えた。具体的には、ニッケルマンガン酸リチウム(正極)、リン酸リチウム(電解質)、チタン酸リチウム(負極)、金属リチウム(負極)の各薄膜の作製に成功した。機械学習を利用した材料開発に向けては、機械学習に利用するMATLABの導入に加えて、Pythonを利用した機械学習への応用を検討し、また試料搬送機構の電動化ならびに各種センサーの利用等により薄膜合成ならびに全固体電池試料の作製と評価の自動化に向けた装置の改良を行った。
 事業成果については学術論文や学会での発表、企業向けセミナーでの講演だけでなく、プレスリリースを行い、新聞紙に研究成果を紹介される等の目に見える結果を得ることで、本学の認知度向上に貢献した。
 さらに直接プロモーションとして、一般の人向けには本学で開催した表面技術協会 表面技術とものづくり研究部会、高校生向けには出前授業や公開授業イベント、企業向けの研修セミナーなどにおいて全固体電池研究の魅力等を講演することにより、広く社会からの共感を得た。

④平成30年度の自己点検・評価及び外部評価の結果

(自己点検・評価)
 本事業は概ね順調に進展している。
 平成30年度は、電池材料の薄膜合成に取り組むと同時に、薄膜型全固体電池を作製・評価を行うための研究設備の導入等の研究を推進するための環境を整備した。また、本事業の成果として、学会・セミナー等での発表12件、電池に関する出前授業1件、企業向け講演会4件、論文・著書出版8件、プレスリリース2件、新聞掲載5件、学会・研究部会招致3件、学術誌での本学ブランディング事業紹介1件の実績を残した。
 次年度以降、本研究を更に推進し、ホームページ等での発信と直接プロモーションを通じて、ステークホルダーと双方向のコミュニケーションを取り、本事業へのステークホルダーからの共感を高めることで、ブランディング事業としての厚みを増していく予定である。

(外部評価)
 2019年7月に、大阪大学産業科学研究所山下一郎特任教授と、京都大学大学院人間・環境学研究科高木紀明教授の2名の外部評価委員の先生方による本年度の進捗状況等に関する評価を受ける予定である。

⑤平成30年度の補助金の使用状況

 本年度は次世代蓄電池の研究環境整備費用、ならびに電池材料試薬等の消耗品購入費用として主に使用した。
 具体的には、薄膜型全固体電池の作製を行うためのスパッタリングやリチウム蒸着装置、露点計等の備品を購入した。その他、電池材料薄膜の合成に必要なPLD用ならびにスパッタリング用の電池材料ターゲット等を購入した。

平成29年度進捗状況

①事業目的

 将来の人類社会を支える重要な社会基盤の要素である次世代蓄電池を開発し、その応用技術を研究していく。

②平成29年度の実施目標及び実施計画

【実施目標】
 次世代蓄電池開発における電解質薄膜の形成に必要な装置の導入を完了する。機械学習を利用した効率的な物質合成実験を実施するための準備を進める。

【実施計画】
 全固体電池技術の開発における本研究の特色である電解質/電極界面を製作するための薄膜装置「薄膜型全固体電池製作・評価装置」を導入する。この装置は、これまで本学研究者らが研究を進めるために用いてきた薄膜合成装置とは仕様が異なり、従来とは異なる薄膜を合成するための装置である。同装置導入により多面的な合成実験が可能となる。同装置による電池材料の高品質な簿膜の製作実験に取り組む。一方、機械学習を用いた物質合成実験を行うための準備として、ベイズ推定を適用した簿膜合成条件の最適化が有効であることを検証する。

③平成29年度の事業成果

 大学公式ホームページ内に本事業に関するページを開設し、事業概要等を公開した。また、次世代蓄電池開発における電池材料薄膜の形成に必要な装置の導入し、事業成果については論文、学会発表セミナー等で広く社会に発信した。
 本年度の具体的な事業成果は以下の通りである。
 電池材料薄膜を真空チャンバー内で合成し、大気に暴露することなく真空環境のマルチプローバーで電気伝導測定、さらにはグローブボックス内で液系薄膜電池を作製可能な薄膜合成・in-situ評価システムの導入・整備が平成29年度内に完了した。薄膜合成はパルスレーザー堆積法で行い、高品質なエピタキシャル薄膜の合成を可能にする。また、マルチプローバーは、交流インピーダンス測定により合成した薄膜のリチウムイオン伝導を計測し、グローブボックスでは、薄膜と電解液を用いたコインセルを作製して、全固体電池との特性比較を行うことができる。本システムの特徴の1つは、薄膜試料を自動で搬送できる機構を有しており、薄膜合成からその特性評価までを高速に進めることができる点である。これらの装置を設置する専用の実験室を大学として準備し、全固体電池の研究を包括的かつ効率的に進める体制を整えた。次年度以降、導入した本システムを用いて、正極材料コバルト酸リチウム、固体電解質リン酸リチウム、負極材料チタン酸リチウムの薄膜合成を行い、結晶性や粒界などの薄膜内部の構造と電解液使用時の電池特性の関連性を明らかにする。また、リチウム金属薄膜作製装置等の導入により全固体電池作製・評価装置を構築し、そのデバイス作製に取り組むとともに、全固体電池と液系電池の特性比較を行う予定である。一方、機械学習を用いた物質合成実験を行うための準備として、平成29年度は技術計算言語Matlabを導入した。次年度以降、薄膜評価装置で得られた実験データを利用し、ベイズ推定を適用した簿膜合成条件の最適化が有効であることを検証する。

④平成29年度の自己点検・評価及び外部評価の結果

(自己点検・評価)
 本事業は概ね順調に進展している。
 本年度は、研究設備の導入、事業専用の実験室の準備等、次世代蓄電池の研究を推進する環境を整備した。また、本事業の成果として、学会・セミナー等での発表7件、電池に関する出前授業1件、論文・著書出版6件の実績を残した。さらに、本事業に関するホームページを開設し、広く社会へ本事業を発信する場を整備した。
 次年度以降、本研究を更に推進し、ホームページ等での一方通行の発信にとどまらず、研究フォーラムの開催等を通じて、ステークホルダーと双方向のコミュニケーションを取り、本事業へのステークホルダーからの共感を高めることで、ブランディング事業としての厚みを増していく予定である。

(外部評価)
 大阪大学産業科学研究所山下一郎特任教授と、京都大学大学院人間・環境学研究科高木紀明教授の2名の先生方に本事業の外部評価委員に就任いただくことについて了承をいただいた。
 2018年7月11日に、両名による本事業の本年度の進捗状況等に関する評価を受け、評価結果等は本事業に関する本学ホームページ等で公開する予定である。

⑤平成29年度の補助金の使用状況

 本年度は次世代蓄電池の研究環境整備費用ならびに、研究の意義、研究計画、研究に必要な装置等に関して情報発信を行うための広報普及費用として使用した。
 研究環境整備費用として、私立大学等研究設備費等補助金を用いて全固体電池の開発における本研究の特色である電解質/電極界面を製作するための「薄膜型全固体電池作製・評価装置」を購入した。上記の他にも、次世代蓄電池開発における電解質薄膜の形成に必要な備品や消耗品を購入した。また、広報普及費用として本事業に関するホームページの開設ならびに充実を図るための費用として使用した。

論文、学会セミナー発表等

令和元年度成果

・Low interface resistance in solid-state lithium batteries using spinel LiNi0.5Mn1.5O4 epitaxial thin films, H. Kawasoko, T. Shirasawa, S. Shiraki, T. Suzuki, S. Kobayashi, K. Nishio, R. Shimizu, T. Hitosugi, ACS Applied Energy Materials 3 (2020) 1358-1363.
・理想的なモデル薄膜電極の作製と内部抵抗低減技術、白木将、西尾和記、一杉太郎、全固体電池の界面制御と作製プロセス (2020)、情報技術協会.
・真空プロセスによる電極/固体電解質接合界面の作製と界面抵抗の低減、白木将、一杉太郎、マテリアルステージ 19 (2019) 26-31、情報技術協会.
・X線CTR散乱法による固体電解質/電極界面の構造解析と界面抵抗低減の指針、白澤徹郎、白木将、一杉太郎、リチウムイオン電池および部材の分析、解析と評価技術 (2019) 情報技術協会.
・Li(Ni0.5Mn1.5)O4全固体薄膜電池における超高速充放電特性、河底秀幸、白木将、一杉太郎、車載テクノロジー 6 (2019) 39-42、情報技術協会.
・「薄膜を利用した全固体電池の電極/電解質界面研究”」、白木将、一杉太郎、第67回応用物理学会春季学術講演会、2020年3月12-15日、東京(招待講演)
・「Anisotropy and low interface resistance in all-solid-state lithium batteries using spinel LiNi0.5Mn1.5O4 epitaxial thin films」、Susumu Shiraki、The 4th International Symposium "Elucidation of Property of Next Generation Functional Materials of Surface/Interface"、2019年12月9-10日、大阪(招待講演)
・「Fabrication and in-situ characterization of well-defined solid electrolyte/electrode interfaces in thin-film lithium batteries」、Susumu Shiraki、12th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices ’19 (ALC'19), 2019年10月20-25日、京都
・「全固体電池における界面抵抗低減と超高速充放電」、白木将、情報機構セミナー「全固体電池の電解質/電極界面制御と電池特性」、2019年10月9日、東京(招待講演)
・「5V級正極材料薄膜の作製とその電気化学評価」、白木将、第80回応用物理学会秋季学術講演会、2019年9月18-21日、北海道
・「全固体電池における界面抵抗低減と超高速充放電」、白木将、CMCリサーチセミナー「車載用LIBの急速充電性能と材料技術の最新動向」、2019年6月27日、東京(招待講演)
・「全固体電池技術の現状と展望”」、白木将、埼玉産業人クラブ・NITEC埼玉産学交流会、2019年6月20日、埼玉(招待講演)
・「全固体電池の電解質/電極の界面現象理解と制御による高出力化」、白木将、サイエンス&テクノロジーセミナー、2019年5月29日、東京(招待講演)
・「表面界面制御・分析技術を活用した全固体電池研究」、白木将、日本学術振興会マイクロビームアナリシス第141委員会・第176回研究会、2019年5月21-22日、愛知
 

平成30年度成果

・Atomically Well-Ordered Structure at Solid Electrolyte and Electrode Interface Reduces the Interfacial Resistance, S. Shiraki, T. Shirasawa, T. Suzuki, H. Kawasoko, R. Shimizu, T. Hitosugi, ACS Applied Materials & Interfaces 10 (2018) 41732-41737.
https://doi.org/10.1021/acsami.8b08926
・Extremely low resistance of Li3PO4 electrolyte/Li(Ni0.5Mn1.5)O4 electrode interfaces, H. Kawasoko, S. Shiraki, T. Suzuki, R. Shimizu, T. Hitosugi, ACS Applied Materials & Interfaces, 10 (2018) 27498-27502.
https://doi.org/10.1021/acsami.8b08506
・全固体電池の固体電解質/電極界面における現象の基礎理論、白木将、一杉太郎、全固体電池の基礎理論と開発最前線 (2018) 83-105、シーエムシー・リサーチ.
・「全固体電池実用化に向けた大学での取組み」、白木将、とちぎ環境産業振興協議会・環境負荷低減技術研究部会、2019年2月28日、栃木(招待講演)
・「酸化物薄膜を利用した全固体電池の電極/電解質界面研究」、白木将、第3回全固体電池研究開発に関する研究会、2019年1月9-10日、埼玉(招待講演)
・「薄膜型全固体電池の作製とそのin-situ電気化学特性評価」、白木将、2018年日本表面真空学会学術講演会、2018年11月19-21日、兵庫
・「高出力全固体電池に向けた界面制御の基礎と研究最前線 ~全固体電池の動作を電気化学と半導体物理の両面から理解する~」、一杉太郎、白木将、CMCリサーチセミナー、2018年11月14日、東京(招待講演)
・「Fabrication and In-Situ Characterization of All-Solid-State Thin-Film Batteries」、Susumu Shiraki、14th International Conference on Atomically Controlled Surfaces, Interfaces and Nanostructures (ACSIN-14)、2018年10月21-25日、宮城
・「真空プロセスによる全固体電池の界面作製とその評価」、白木将、全固体電池セミナー「全固体電池における固体電解質と電極の界面設計、分析」、2018年9月28日、東京(招待講演)
・「全固体薄膜電池作製・in-situ評価装置の構築」、白木将、第79回応用物理学会秋季学術講演会、2018年9月18-21日、愛知
・「Electrochemical Properties of Li4Ti5O12 and LiTi2O4 Epitaxial Thin Films」、Susumu Shiraki, Yoshitaka Takagi, Ryota Shimizu, Taro Hitosugi、2018 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM2018)、2018年9月18-21日、東京
・「真空・薄膜技術を活用した全固体リチウム電池研究」、白木将、表面技術協会・表面技術とものづくり研究部会例会、2018年8月30日、埼玉(招待講演)
・「全固体電池の電解質/電極界面制御とイオン電導特性」、白木将、CMCリサーチセミナー、2018年8月23日、東京(招待講演)
・「Fabrication and in-situ characterization of well-defined solid electrolyte/electrode interfaces in thin-film lithium batteries」、白木将、The 3rd International Symposium on "Recent Trends in the Elucidation and Function Discovery of Next Generation Functional Materials of Surface / Interface Properties"、2018年6月18-20日、大阪(招待講演)
・「薄膜型全固体電池作製・in-situ評価装置の構築」、白木将、平成30年度日本表面真空学会 九州支部学術講演会(九州表面・真空研究会2018)、2018年6月9日、福岡
・「酸化物薄膜を利用した全固体電池の固固界面研究」、白木将、日本学術振興会ナノプローブテクノロジー第167委員会・第88回研究会、2018年4月13日、東京

平成29年度成果

・Li-diffusion in spinel Li[Ni1/2Mn3/2]O4 powder and film studied with mu+SR , J. Sugiyama, H. Nozaki, I. Umegaki, K. Mukai, S. Cottrell, S. Shiraki, T. Hitosugi, Y. Sassa, A. Suter, Z. Salman, T. Prokscha, and M. Mansson, JPS Conference Proceedings Proceedings of the 14th International Conference on Muon Spin Rotation, Relaxation and Resonance (2017) in press.
・Lithium diffusion in spinel Li4Ti5O12 and LiTi2O4 films detected with 8Li β-NMR, J. Sugiyama, I. Umegaki, T. Uyama, R. M. L. McFadden, S. Shiraki, T. Hitosugi, Z. Salman, H. Saadaoui, G. D. Morris, W. A. MacFarlane, and R. F. Kiefl, Physical Review B 96 (2017) 094402, 1-10.
https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.96.094402
・「薄膜型全固体電池の作製と電解質/電極界面におけるイオン伝導特性」、白木将、全固体電池セミナー「全固体電池における電極複合体の作製プロセスと電池性能」、2018年1月25日、東京
http://www.gijutu.co.jp/
・「表面・界面のナノサイエンス~原子・分子を観る、測る、制御する~」、白木将、日本工業大学シンポジウム「ものづくりのこれまで、これから」、2017年12月2日、埼玉
・"Electrochemical Properties of Li4Ti5O12 and LiTi2O4 epitaxial thin films synthesized with pulsed laser deposition", Susumu Shiraki, 11th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices ’17 (ALC'17), December 3-8, 2017, Hawaii, USA.
https://alc.surf.nuqe.nagoya-u.ac.jp/alc17/
・"Very-Low Solid-Electrolyte/Electrode Interface Resistance in Li(Ni0.5Mn1.5)O4-Based Thin-Film Battery", Susumu Shiraki, Hideyuki Kawasoko, Toru Suzuki, Ryota Shimizu, and Taro Hitosugi, The 5th Ito International Research Conference, November 20-23, 2017, Tokyo, JPN.
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/MDSS_IIRC5/IIRC5_2017/
・「5V級正極LiNi0.5Mn1.5O4と固体電解質Li3PO4が形成する超低抵抗界面」、白木将, 河底秀幸, 鈴木竜, 清水亮太, 一杉太郎、河底秀幸、鈴木竜、清水亮太、一杉太郎、第58回電池討論会、11月14-16日、福岡
https://confit.atlas.jp/guide/event/denchi58/top
・「5V級正極LiNi0.5Mn1.5O4を用いた全固体薄膜電池の作製とその高速充放電特性」、白木将、第6回酸化物研究の新機軸に向けた学際討論会、2017年6月16-17日、福岡
http://oxides.kek.jp/oxide_innovation/
・「5V級正極Li(Ni0.5Mn1.5)O4と固体電解質Li3PO4界面におけるイオン伝導特性」、白木将、河底秀幸、鈴木竜、清水亮太、一杉太郎、第22回九州薄膜表面研究会、2017年6月24日、佐賀
http://www.surf.ele.kyutech.ac.jp/kenkyukai/kyushuhyomen2017.html

プレスリリース