教員の研究活動教員の研究活動
基幹工学部応用化学科大澤正久教授らの研究成果がDalton Transactionsに掲載されました。
応用化学科大澤正久教授らは、緑に強く発光し、かつ短い発光寿命を有した金系リン光材料の合成に成功し、その発光プロセスを明らかにしました。本成果は英国王立化学会の無機化学系専門誌の中で最も権威があるDalton Transactionsの裏表紙に採択されました。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/dt/d0dt03144e#!divAbstract
有機EL(OLEDs)ディスプレイ1)はiPhoneにも搭載されるようになり、より身近なデバイスとなっています。このディスプレイを構成するためには、赤、緑、青色(RGB)に自発光する有機材料が必要です。そのため実用レベルの有機発光材料の開発を目指して活発な研究が行われています。大澤先生のハイブリッド材料研究室2)では、銀及び金系遅延蛍光材料3)の開発を行っています。
今回発表された金系リン光材料は遅延蛍光材料(図1左))とよく似た構造をしており、遅延蛍光材料と同様に、強い緑色リン光(量子効率100%)を示します(図2)。しかしながら発光寿命は遅延蛍光材料が6マイクロ秒と比較的長い寿命を示すのに対し、リン光材料は2マイクロ秒と短い寿命を示すことから発光過程は大きく異なっていることが示唆されました。ディスプレイ上で動画を再生するための応答速度を考慮すると発光寿命は短い方が好ましく、現在実用化されているイリジウム系材料の発光寿命は2マイクロ秒以下です。このことから、今回合成に成功した金系材料はイリジウム系材料に匹敵する光特性を有していることが明らかになりました。また量子化学計算の結果から、この材料の金―金及び金―ヨウ素結合が光物性に大きく寄与していることが判明しました。この強発光過程の解明は、イリジウム系以外の新しいリン光材料の分子設計に役立てることができます。
この新規なリン光材料を用いてプロトタイプの有機EL素子を製作する計画とのことです。
(教育研究推進室)
1) 有機発光材料を利用した薄型ディスプレイ
2) ハイブリッド材料:金属と有機物(有機配位子)を組み合わせた材料
3) https://www.nit.ac.jp/topics/view/1925
https://www.nit.ac.jp/education-research/research_activities_no1.html
図1 発光材料:(左)遅延蛍光材料、(右)今回合成したリン光材
図2 リン光材料の発光の様子 (図1,2は大澤先生の論文から引用しました)
【大澤先生より】
本成果の一部は、本学大学院工学研究科 環境共生システム学専攻1年に在籍している相馬咲絵さんが修論のテーマとして行っているものです。ここに謝意を示します。また、X線構造解析とNMR測定でお世話になりました東京工業大学化学生命科学研究所・田中裕也博士に感謝申し上げます。