生体分子化学研究室 (佐野 健一)|環境生命化学科|学部・大学院|実工学教育の日本工業大学

基幹工学部環境生命化学科

※2025年4月より、応用化学科から学科名称変更予定

生体分子化学研究室

佐野 健一 教授

教員紹介 紹介動画① 紹介動画②

研究室紹介

01-1.jpg

『生物に倣い、生物を利用し、材料から習う』

現存する生物は、30億年にも登る長い時間、激しい競争を乗り越え、今に至っています。いわば地球という試験管の中で行われた進化実験の結果は、私たちに多くのことを教えてくれます。本研究室では、優れた生物の機能を分子のレベルで明らかにし、そこで得られた知見をものづくりに活用する〜「モレキュラーバイオミメティックス」(Molecular Biomimetics; 分子生物模倣)と言われる研究に主に取組んでいます。さらに最近では、人類が造り上げた様々な材料と生物の関わりを環境問題として捉えるのではなく、ものづくりに活用する「リバースバイオミメティックス」にも挑戦しています。当研究室の研究テーマは、これらに限りません。面白ければ何でも挑戦する!という心意気で卒業研究を始め、低年次でのゼミや研究のテーマ設定にも反映させています。

主な研究紹介

細胞透過性ドラッグデリバリーシステムの開発

近年、創薬において、タンパク質、抗体や核酸などの高分子医薬が多いに注目を集めていますが、これらの多くは、細胞に取込まれて初めて効果を発揮します。しかしながら、細胞には細胞膜という天然の強力なバリアが存在しており、これらの高分子医薬はそのままでは細胞の中に取込まれることはありません。一方、アスベストやカーボンナノチューブといった細長く、固い構造を特徴とする材料は、細胞への取込みが極めて効率よく行われることが知られています。ただ、これらの材料は肺脾腫に代表される毒性(がん源性)があることが分っています。

本研究室では、アスベストやカーボンナノチューブが持っている高い細胞透過性を活かし、毒性を回避する細胞内ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を進めています。これらの材料の特徴である細長い形と固い構造が、高い細胞透過性の要因であると考え、さらに毒性の源である非生分解性を回避することができる材料としてタンパク質に着目しました。細長い形と固い構造を持つ天然のタンパク質であるトロポミオシンを再設計したCCPCと名付けた人工タンパク質は、これまでの細胞内DDSに使われている分子と比較すると10〜1000倍にも及ぶ、高い細胞透過活性を持っていました。さらにモデル高分子薬の細胞内DDSにも高い効果を発揮することも分りました。

現在、基礎研究として、(1) タンパク質構造の剛直性(安定性)を制御する因子の解明、(2) 細胞透過の分子メカニズムの解明を進めています。また、応用研究として、(3)実際に様々な薬を細胞内に導入させる技術開発や、(4) 細胞内DDSとして必要な細胞内局在制御や薬剤担持・徐放特性について研究を進めています。

関連文献

1.Nakayama N., Hagiwara K., Ito Y., Ijiro K., Osada Y., Sano K. “Superior Cell Penetration by a Rigid and     Anisotropic Synthetic Protein” Langmuir, 31, 2826-2832 (2015)

2.Nakayama N., Hagiwara K., Ito Y., Ijiro K., Osada Y., Sano K. “Noncationic Rigid and Anisotropic Coiled-Coil     Proteins Exhibit Cell-Penetration Activity” Langmuir, 31, 8218-8223 (2015)

3.Sano K., IIjima K., Nakayama N., Ijiro K., Osada Y. “Efficient Cellular Protein Transduction Using a Coiled-coil     Protein Carrier” Chem. Lett., 46, 719-721 (2017)

02-2.jpg

創薬を指向した研究

アルツハイマー病や狂牛病などの原因として知られるアミロイド。このアミロイド繊維の分解・不安定化を促進する分子の開発を進めています。また、アメーバ粘菌という変わった生き物を使って、”うつ”などの心の病やがんにおける新しい創薬ターゲットとなる分子の同定を進めています。

企業との共同研究

基礎研究に基づいた企業との共同研究にも積極的に取組んでいます。化粧品中に含まれるアレル源となる分子の簡便かつ再現性の高い検出法の開発、短時間で毛染めが可能となる技術開発といった美容関連の研究も行っています。また、古くなったおしぼりが衛生基準を満たしているかどうかの調査や、食品製造現場の排水溝に住む菌の同定なども行っています。

関連文献

1.Nakayama N., Ohtsu Y., Maezawa-Kase D., Sano K. “Development of a rapid and simple method for detection of protein contaminants in carmine” Int. J. Anal. Chem. 2015, 748056 (2015)

2.Sano K. “Cohnella species survive on laundered moist hot hand towels” submitted.