先進工学部データサイエンス学科
研究室紹介
近年の生命科学の手法の進歩は凄まじく、オプトジェネティクスをはじめとした遺伝学的・神経学的手法の発展により、どのパーツ(遺伝子・神経)が、どの行動・生態に関わっているのかの解明が大きく進んでいます。ハエの全脳シミュレーションに成功したという報告もあります。これらのミクロな原理の解明の次のステップとして、それらのパーツ同士がどのようにつながり変化するのかを明らかにする、すなわち動的なシステムとしての理解が求められています。システムとして理解することは、生き物の種の枠組みを超えた比較を可能とし、個体を超えた集団レベルの行動・生態のメカニズムの理解にも寄与します。
当研究室では、生き物の行動・生態の背後にある動的なシステムを理解するためにさまざまな機関・人と協力しながら研究をしております。アプローチも多種多様で、野外・室内での実験、AIを用いたデータ解析、シミュレーション、理論などを用いています。メインとする種はアリですが、小さいものはバクテリアから大きいものはヒトまで、数μmから数メートルまでのスケールの生き物を対象として研究をしてきました。さらに、これらの基礎的な探究にとどまらず、得られた知見をもとに環境や生態の保全などの実社会に還元できる応用的な研究にも取り組んでいます。
主な研究紹介
アリの集団行動メカニズムの解明
アリは私たちにとって最も身近な生き物の一種です。春から夏にかけて、縁石と地面の境にある小さな砂山はアリの巣です。巣をしばらく見ていると、巣の中からせっせと土を運び出したり、外から虫の死骸を持って帰ろうしたりする一生懸命な様子が観察できます。そんな彼女たち(我々が目にするアリは基本的にメスです)は人間に匹敵するほど繁栄した種です。農耕をしたり、戦争をしたり、建築をしたり、奴隷制度を敷いたりと、良くも悪くも人間顔負けの複雑な社会を持っています。体長数 mm 〜数 cmと非常に小さな身体サイズにも関わらず、複雑な社会を生み出し繁栄するメカニズムはなんなのか?これが大きな研究テーマの一つです。
協調運搬行動システムの解明
アリの集団行動で特に着目しているのが、一つの物体を複数個体で運ぶ行動、すなわち協調運搬です。小学校の運動会の大玉運びを想像していただくとわかりやすいかもしれません。この協調運搬は、実は人間とアリ以外だと、一部のクモやフンコロガシにしか見られない非常に高度な集団行動です。運搬に参加する個体それぞれが「自分が運びやすい方向」に運ぼうとすると、引っ張り合いになってうまく運べません。①ゴールの方向の認識、②物体のどこに自身が配置されているか(例えばゴールの方向に対して背を向けているなど)の認識、③脚を動かすタイミングを他の個体と同期、これら3つを同時に達成することで、初めてスムーズな協調運搬が可能になります。
非常に小さい生き物であるアリが、どのようなメカニズムで協調運搬を達成するかを知るために、様々なアプローチで研究をしています。数理モデルにより抽象的に理解する試み、特殊な機械を使って運搬中にエサの重さを変える実験、AIを利用した行動の分類・検出・姿勢推定も行なっています。
この研究を通してアリの賢いシステムを理解した後には、アリのアルゴリズムを群れロボットへ実装するなど、応用方向へ展開する予定です。
生き物の行動・生態のシステムの解明と応用
アリに限らず様々な種の行動・生態に関するデータを解析し、生態の保全や動物・ヒトの医療などに活用する、社会に直接的に貢献する応用研究にも取り組んでいます。

AIを用いたアリの行動解析