第66回教育改革シンポジウム(FD/SD研修会)|教育力・研究力|実工学教育の日本工業大学

教育改革シンポジウム第66回教育改革シンポジウム(FD/SD研修会)

第66回教育改革シンポジウム(FD/SD研修会)
障害のある学生と合理的配慮

■日時:
令和 3 年 12 ⽉ 23⽇(⽊)  16:30〜18:25

■場所:
学友会館ホール(来場型のみで開催)

■趣旨:
 現在、大学、短大および高等専門学校における障害学生数は、3 万5 千人を超えております。そして、その約半数を、発達障害と精神障害が占めており、学生への様々な支援が求められるようになってきました。
 本学においては、合理的配慮の制度も整備されつつあり、また対処フローも新たに構築されております。しかし、合理的配慮は、マニュアル化することで画一的に行えるものではなく現場の教職員の方々の理解に基づく柔軟な対応が求められるものでもあります。
 また、合理的配慮は、3 年以内に、私立大学でも「努力義務」から「法的義務」になることが決まっており、その対応においては、教職員による障害に対する理解が必要不可欠です。
 そこで、今回の教育改革シンポジウムでは、第一部で講師の方から、「障害への基本的理解」「障害学生支援に関する基本的な考え方と合理的配慮」「他大学(私大)の事例」などについてご講演いただき、第二部で、本学における合理的配慮の状況を説明することで、合理的配慮への理解を深めてもらうことを目的としました。

■プログラム:
1.開会の挨拶:成⽥ 健⼀ 学⻑
2.趣旨説明:中野 道王 学生支援部長
3.第一部 講演:甲南大学 文学部教授・学生相談室カウンセラー
          日本学生相談学会 理事長 高石 恭子 氏
          タイトル:障害のある学生と合理的配慮
 第二部 報告:川合 耕一郎 学生相談室長
          タイトル:本学における合理的配慮の状況
4.質疑応答
5.総括:辻村 泰寛 教務部長

■参加者数:109名

■内容紹介
◆講演(高石先生):

 コロナ禍が学生のこころにもたらしたものは、「あいまいな喪失」と「未来系のトラウマ」。復興後の未来が見通せないキャンパスライフと修学意欲の低下につながっている。
 障害のある学生とは、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生のことをいう。障害学生の範囲は、2015年度から「精神障害」が障害種別として独立し、「病弱・虚弱」の中に慢性疾患、難病などが追加。診断未確定の抑うつ状態や食物アレルギーなどでも、障害学生として合理的配慮を申請できるようになった。2021年6月の法改正により、私立大学においても合理的配慮が法的義務化され、各大学において、意識啓発・情報公開が急務となる。
 2015年度から明記された障害種別と具体例を紹介。「病弱・虚弱」の例として、内部障害、他の慢性疾患、「精神障害」の例として、統合失調症等、気分障害、神経症性障害等、摂食障害・睡眠障害等、他の精神障害、「その他の障害」の例として、視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由等、多汗症、原因不明の過敏性腸症候群、頻尿等。医師の診断書等の根拠資料があるか、健康診断等で発見された場合は、以上のすべてが障害学生支援の対象(合理的配慮の対象)となりうる。
 障害者の権利に関する条約の中で、合理的配慮について着目する点は、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」の部分。
 高等教育における障害支援の大原則として、(1)”Guarantee access-not success”(評価を受けるためのアクセスは保証するが、成功は保証しない。)、(2)”No modification”(教育目標、及び評価基準や要求水準の変更は行わない。)を紹介。当該教育の本質を変えずに社会的障壁の除去が可能か考えなければならない。
 合理的配慮提供にあたっての原則は、「学生本人からの申し出」「学生との建設的対話による合意形成」「根拠資料」「配慮内容の決定は組織としての判断」でなければならない。
 精神障害・発達障害は、「disorder(変調、秩序やバランスの乱れ)」であり、「disability(能力の欠如)」とは異なることを理解しておく必要性がある。そして、時間と共に状態は変わることもあるので、「今、何を、どこまで配慮することが教育として適切か」を考えなければならない。
 修学上の「配慮」は、「一般的配慮(全教職員が学生に対して提供する:通常の学生教育の一環)」、「教育的配慮(教員が特別なニーズをもつ学生に対して専門家の助言を受け提供する:任意)」、「合理的配慮(大学が障害のある学生からの申請に基づいて提供する:義務)」の3段階があり、合理的配慮は、「公平・公正」の実現のために提供される。
 理工系学部での修学支援の具体的な事例として、社会的場面やコミュニケーションに困難を抱える場合と、実習・実験の遂行に困難を抱える場合について紹介があった。いずれも、当事者と大学との間で建設的対話を継続し、合理的配慮の最適解を見出していくことが必要である。
◆報告(川合室長):
 不当な差別的取り扱いを防ぎ、必要な合理的配慮をできる限り円滑かつ迅速・適切に決定・提供するためには、それぞれの大学等の状況を踏まえた体制整備が不可欠であり、その体制とは、事前的改善措置、学内規程、組織である。
 学生相談室を経由して合理的配慮を受ける学生の状況を、学科別、主たる診断別に人数を確認。
 神経発達症・発達障害学生と精神障害学生の、修学上の困りごとと配慮の例を報告。
 合理的配慮を申請した学生にとって、配慮内容も大切だが、要請した声が聞き入れられる体験や、教職員との対話の中で、大学組織や大学教育という枠組みの手応えを感じる体験も大切である。それは、自己理解を促進し、青年期課題であるアイデンティティの確立につながる。このことは、特定の誰か(例えば専門家)任せでは解決せず、現場の担当者(教員・職員)の対応が重要である。
 今後の検討課題としては、合理的配慮の組織的な取り組みを内外へ発信すること、紛争解決をどのように行うのか、などがあげられていた。

学生支援課 齊藤 望

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    成田健一学長挨拶
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    高石恭子氏の講演
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    川合学生相談室長の報告
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    質疑応答

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